最高裁判所第三小法廷 昭和33年(あ)2535号 判決 1963年4月09日
主文
原判決中、被告人長野県缶詰興業株式会社の第一審判決判示第一の(三)の罪に関する部分及び被告人瑞穂食糧化工株式会社並びに被告人山口慶蔵に対する各有罪部分を破棄する。
右部分に関する本件を東京高等裁判所に差し戻す。
被告人長野県缶詰興業株式会社のその余の本件上告を棄却する。
理由
弁護人大竹武七郎の上告趣意について。
原判決が、物品税法一八条(昭和二四年法律二八六号による改正前のもの)にいわゆる「詐欺其ノ他不正ノ行為」のうちには、物品税納税義務者が、同税を逋脱する目的で故意に法定の申告をしない場合をも包含する旨判示して、第一審判決判示第一の(三)及び第二の(1)の各単純不申告による物品税逋脱罪の成立を是認したこと、及び論旨引用の昭和二四年七月九日第二小法廷判例が所得税法(昭和二五年三月法律第七一号による改正前のもの)六九条一項によって、「詐欺その他不正の行為」により所得税を免れた行為が処罰されるのは、詐欺その他不正の手段が積極的に行なわれた場合に限り、かかる行為を伴わないいわゆる単純不申告の場合にはこれを処罰することはできない旨判示したことは所論のとおりである。
されば、原判決は、右第二小法廷の判例の趣旨に反する判断をしたものというべく、(なお、同趣旨の昭和三三年(あ)第一五六九号同三八年二月一二日第三小法廷判決参照)原判決中、被告人長野県缶詰興業株式会社の第一審判決判示第一の(三)の罪に関する部分及び被告人瑞穂食糧化工株式会社並びに被告人山口慶蔵に対する各有罪部分は刑訴四〇五条二号、四一〇条一項により破棄を免れない。論旨は右の限度で理由がある。
なお、論旨引用の福岡高等裁判所の判決は、当裁判所の右各判例と同趣旨につき、刑訴四〇五条三号の判例に当らない。
よって、前記破棄すべき点に関しては、さらに事実を調査する必要があるから、同四一三条本文により右部分に関する本件を原裁判所に差し戻すこととする。なお、被告人長野県缶詰興業株式会社のその余の部分に対する上告は、上告趣意として何らの主張がなく、従ってその理由がないことに帰するから、刑訴四一四条、三九六条により主文第三項のとおり上告を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)